今回の課題図書  記憶する体  伊藤亜紗

エッセイ↓↓↓

身体の記憶

岩だらけの平原を疾走する。前足の爪が的確に凸凹を捉え、ぐんぐんスピードが上がっていく。前足が捉え後方に飛んでいく地面の感触はありあり残る。

スピードが上がりすぎ、もはや地に足がつかない状態になると、一気に視野が上昇する。屋根のかわら、電線、高い壁、電柱が目の前をすり抜け、どんどん身体が高みに上がっていく。広げた翼、風切羽が文字通り風を切り裂き、ほんのわずかに角度を変えただけで電線をすり抜け、屋根と屋根の間を通り抜ける。急上昇、急降下、急旋回は思いのまま。
下方に見えるアーケードの商店街。
人の頭がたくさん通過していくのが見える。
一振り翼を打ち下ろすと、身体はどんどん上昇していき、白い雲の切れ目から街並みがミニチュアのように見える。
さあ、次の場所に向かわなきゃ…

目を開けると、重たい身体がベッドに横たわっている。
疾走していた前足も、すぐ横で音を立てていた風切羽も見当たらず、ただその感触だけが身体の中に確実にのこっている。

かつて地を駆ける獣だったり、大空を翔る鳥だった時の身体の記憶か?
夢にしてはリアルすぎる体性感覚。

白く光るふわふわの雪。
両足でグッと踏み込むと板が反発してフワッと浮き上がる。軽くなった瞬間に逆側に板を振って、再び踏み込んでいく。
真っ白な世界の中で、斜面を飛び降りていくように滑っていく両足の感覚。

黄色くサラサラ流れるような砂の山。
雪でなくても、踏み込んで浮き上がったら反対に板を振っていく要領はおなじ。飛んで降りていく途中には岩が顔をだしており、そこにエッジを引っ掛けると内臓を抉るようなゴリッ!!という感触。

うわっと思った瞬間、脚に柔らかいものが当たった。毛布だった。
心臓はドキドキし、汗もジットリ滲んでいる。
たった今まで滑り降りていた身体の記憶。

夢にしてはやけにリアルな感覚が身体の至る所に残っている。

さて、これはいつの記憶なんだろうか?
脳が創り出した幻影なのか、太古から受け継いだDNAのメモリーなのか、
パラレルワールドの私の感覚なのか、それとも…?

 

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エッセイここまで。

意図

時々、ものすごく身体感覚がリアルな夢をみる。それを描いてみました。他にも落っこちる感覚、やバイクのハンドルを握ってるうちに身体が浮あがる感覚等、夢にしてはリアル過ぎる体性感覚が起こります。なんでだか、なんなんだかわかりません。が、キライじゃないです。