その本は

 

 

 

 

 

 

 

 

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その本は、カリカリでホクホクで
小判型で、揚げたてはかなり熱い。

アチアチ言いながらかじると
口の中にホロっと広がる。
そのままで十分いいんだけど、
ソースをつけるともっといい。
横にキャベツがあるとさらに幸せ。

イヤなことがあった時
逃げ込める過去があるといい。
20年間通い続けた駅前の道。
ほとんどのお店は変わってしまったけれど、かろうじて今もやってるお店がポツンポツン。

10歳から29歳、
幼生体から成体へと変貌を遂げるには
充分にしてあまりある時間。
その時間を過ごした空間は、
過去から現在に至るまで
今もなお、じゅうぶんに私を癒してくれる。

部活でクタクタの身体を引きずって電車から降り、改札を出てすぐ2軒目。
そこで買う70円のコロッケは、空っぽになったお腹も心も満たしてくれて、
家までの長い登り坂に挑むエネルギーをくれた。

年がら年中減量中、お小遣いも決して多くはなく、いつもお腹とお財布は空っぽで、
そんな時、学校から離れ自宅最寄り駅近くで買うコロッケは、誰にも見られず、お財布にも優しい『重要なひと品』だった。

縁あって、再びその道その町を通勤、業務場所とする事になった。

既にこの町を離れて30年。
成体から成熟体を通り越し、既に老体に差し掛かった心と体で慣れない業務に四苦八苦する日々。

今更ながら『家族の為に我慢して働いてる』という課題、試練に嫌々ながら立ち向かう…
いや、立ち向かうというほどの元気も気合いも気概もない。
ただただ、ストレスをやり過ごす日々。

そんな中、子どもの頃に遊んだ公園、癒されコロッケ、そして毎日ワクワク通った全ての道に癒される。
過去の優しい穏やかな記憶に、住む人家々は変わりながらも構造体としては変わっていない街並みを重ね、しばしのタイムトリップを楽しむ。

ギャーギャー喚き散らすうるさい上司の存在は、この世界からしっかりきっちり締め出し、ほっぽり出して、
暖かくゆっくり流れる時間に身を委ねる。

その本をかじると
そんな光景が広がるのだ。

 

 

エッセイここまで

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意図

この本は好き。本というモノの概念をぶっ壊してくれた。過去の街並み、記憶、コロッケが一体となって『その本は』というカタチに凝縮、昇華した作品です。

コロッケは135円になっていたけど、懐かしい味でした。ついでにクソ上司、異空間にほっぽり出してスッキリ☆。.:*・゜しました。