課題本『ひまわりのなみだ』横須賀しおん著

太陽系外縁天体準惑星のはなし
2021/9/19 19:23

私が『彼』と出会ったとき、
彼は恒星の如くの輝きを放ち、周りには惑星の如く彼の光を受けて輝く女性たちがいた。

もう、かねてからずっとそのような状況だったのだろう。惑星達も各々の衛星を引連れ、眩いばかりの輝きを放ちながら、恒星の周りに集い、公転周期を回っていた。

その輝きに魅せられ、私もその輪の中に飛び込んで行った。

日々、研鑽を重ね、
『彼』の目に叶うよう頑張って頑張って頑張った。
大奥とも言える『彼』の惑星達の中での押し合いへしあいをかいくぐり、
ようやく、太陽系第9惑星の地位まで上り詰めた頃、私は私の中にある余計な感情に苦しめられることになった。

それまでの『彼』のお気に入りは、分かりやすく水星の如く近くで輝いている人だった。しかし、『彼』が長年抱えてきた弱点を克服する女神の如く表れたのが金星の人だった。

以来、1番手は水星の人から、金星の人へと変わり、「大奥」のメンバーも潮が引くように入れ替わり始めた。

入れ替わっていく中で最古となる木星の人は、まさに木星の如く大きな存在感を示しながらもそのガス状巨大惑星そのままに、他を脅かすことなく一定の周期を持ち『彼』の周りを変わることなく回り続けている。

私の中で、
『彼』のごく近いところで回る金星を羨む気持ちはやがて憎しみに変わり、自分自身を切り裂くようになるのは明らかだった。
そんなことになっても誰も幸せになりはしない。

他力本願は趣味ではなかったが、背に腹はかえられない。
私は大天使ミカエルに、その剣をもって『彼』を慕う気持ち以外の全ての感情を切り落としてくれるよう願った。


願いは叶えられた。
私は『彼』が金星の人といくら近しくしようが、土星の人や火星の人と戯れようが、気にならなくなった。
私は太陽系第9惑星から、太陽系外縁天体準惑星に自らを格下げした。

『彼』は太陽。
その輝きは当分失われない。
そして私達もその間、その輝きを受け、それぞれの距離で『彼』の周りを公転し続ける。